原田マハさん講演会

ーー彼らこそ、たゆたえども沈まぬ舟だった。

 

昨日、上野の東京都美術館で開催している「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」へ行ってきました。
目的はこの展覧会ではなく、原田マハさんによる特別講演会。

 

10月25日に発売されたマハさんの新刊「たゆたえども沈まず」は、フィンセント・ファン・ゴッホと弟・テオ、そして日本人画商である林忠正の物語。

 

林忠正はパリ万博の際に通訳として渡仏。岩井・林商会を設立し、日本美術を広めた。パリ・イリュストレ紙の日本特集に寄稿するなど、優れた画商として名を馳せる。
浮世絵を世界に広めた立役者だが、美術館を開こうと日本へ帰ると国賊扱い。失意のまま、生涯の幕を閉じた。
そんな林忠正を「歴史の闇の中から掘り起こしてみたい」と思ったマハさん。

 

そして、今でこそ知らない人はいない天才画家ゴッホだが、彼の人生もまた苦難の連続だった。
「もしもゴッホに寄り添った日本人がいたら?どれほどのなぐさめになっただろう」

 

1886年、この3人は同じパリの空の下にいたーー
これは紛れもない事実である。
浮世絵や日本美術から多大な影響を受けていたゴッホと、ヨーロッパで浮世絵の普及に努めた林忠正
しかし、ゴッホ兄弟と林忠正が接触したという文献や証拠はひとつも残っていない。

「ならば、小説で描いてしまおう」
こうして、この物語が生まれたそうです。

 

本のタイトル「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」はパリ市の標語。
セーヌ川の中州であるシテ島は、川の氾濫のたびに沈んだかのように見えるが、必ず再び姿を現わす。まるで不死鳥のように復活するシテ島は、パリそのもの。
歴史に翻弄され、揺れはしても決して沈まない。パリの不屈の精神を象徴した言葉。

この言葉を、苦しくても自分の信念を貫き、人生を闘い抜いた3人の男たちと重ね合わせたマハさん。

 

彼女は「楽園のカンヴァス」をはじめ、数々のアートミステリーを生み出しています。
その際、10%の史実と90%のフィクションで作り上げているそう。90%の壮大なフィクションが乗ったときに、この10%が弱いものだと、たちまち物語は崩壊してしまう。そのため、この10%は徹底的に調べ、とことん作り込むといいます。
事実とフィクションのシームレスを心がけ、小説が読者にとって「良き入口であり、良き出口であってほしい」と語るマハさん。アートは難しいと思っている読者が、マハさんの小説を入口にして、本をとじた後に現実世界へ出て行って本物の作品を見てほしい。そんな仕掛けになるように、物語を紡いでいるそう。f:id:kumapower17:20171119211053j:imagef:id:kumapower17:20171119211104j:image